鎌倉の武士に神道を尋ねる

日本独自の仏教が大きく花開いた鎌倉時代の武士に「日本の伝統って何ですか*1」と聞いてみたい。はいはい、ゆとり教育ゲーム脳になった非国民はこう答えるでしょう。

「それは神道*2です!」

はて、神道は日本の伝統文化か。Ja(肯定)であり、Nein(否定)である。オランダ語で言うと niet echt(部分否定)であり、英語でいうところの Not really(そうでもない)である。

まず、明治以降の「アマテラスを最高神に置く体系化された擬似一神教*3」は、日本の伝統文化ではない。これは、近代の国民国家を造るために必要だった方便。言うなればウソ。この明治神道をもって「日本独自の思想・宗教はここにあり」なんて言ったら右翼の風下に置くぞ。
じゃあ、それ以前に神道という文化の認識はなかったか。いや、あったらしい。江戸時代*4に興った国学という学問だ。色々な国学者はいるが、面倒なので本居宣長という人物を中心に考えてみる。彼は、大昔の日本の文献を漁っているうちに大変なことが気付いた。

何だよ、ジャップのカルチャーはチャイニーズ・オリジンまみれじゃねーか
朝鮮語訳)ウェノムの文化は全部ウリナラ起源認定ニダ!

つまり、日本文化の殆どが中華由来の文化に染まっていて、大昔の文献に見られるような感情の機微といったものが今(江戸時代のこと)は失われているらしいということに気付いた。ここで、彼は中華由来の思想を「からごころ(外国の考え方)」と呼んで古来の日本人らしい思想(もののあはれ)と区別しようとした。
ここで重要なのは、ハッキリ言わせてもらえば、天皇といった日本の伝統を担うハズの貴族文化までもが「徹底して」外国文化に染まり切っていたことだ。実際、現在取り行われている天皇の祭事の幾つかは、明治以降に復活させられたものし、今のような神前結婚式なんてのも明治以降に一般化した新伝統だ。

要するに、本居宣長によって初めて「日本独自の伝統文化」という「発見」があった。この発見があったからこそ、明治以降の復古(古いものを再生する)という名目が生まれたワケ。で、彼を継いだ平田篤胤という人物が所謂「復古神道」を作り上げることになる。
で、まーここから尊皇攘夷とかが出てきて、それまでずっと大切にしてきた仏教やら儒教やらの「伝統文化」を廃仏毀釈*5といった形で壊していくという逆転現象が起きるのだが…。

ただ、良く考えてみると、明治以降に全てが「もののあはれ」に戻ったかと言えば、それは違うと分かる。中華の割合を大幅に減らした代わりに復古調の味付けをした西洋文明を取り入れただけだ。明治天皇も戦前の昭和天皇もヨーロッパ式の軍服を着て御影を取っているし、様々な社会制度・風習だって西洋化した。今だって皇族は重要儀式にすら「洋服」を着ている*6。復古するどころか、実質的には大きく逸脱しちゃった。

そもそも仏教は、聖徳太子の時代から信仰し続けられて、明らかに数多くの日本文化に取り込まれているし、世界においては「ZEN(禅)」が日本を代表するマジック・ワードともなっている。この記事にも書いたように、もちろん儒教も日本に大きな影響を及ぼし続けてきた。こういった宗教だけじゃなく、建築様式や食事習慣といった点にも数多く外国の文化が根付いている。
こういった伝統を無視して、大昔の「日本人らしさ」だけを抽出しようなんて最初から無理があるし、そもそもそうやって出来上がったものは「伝統」とは呼べない代物なのは、右翼*7の皆さんには分かって頂けるハズ。

さて、話を元に戻そう。ここまで読んでくると、kilemall は神道なんて伝統じゃないと言いたげに聞こえるかもしれない。が、ここであえて神道、いや「神さま」が伝統だと主張したい。
これだけ色んな民族*8と宗教、地域差が渾然一体となり、それぞれが分離できないほど密接に結び付いておきながら、平然としてられる。それどころか、それぞれの思想・宗教・地域伝統*9から都合の良いところだけを摘み食いしてお腹を壊さない。この日本人の胃袋の秘密が「神さま」だ。
日本人の食べ物には、常に無味無臭の「神さま」っぽい何か*10が調味料として加えられ続けてきた。この調味料があれば、どんなに慣れない料理でも「かむながら*11」という日本人好みの味付けになってしまう。この驚きの威力は、本地垂迹説や明治神道という歴史の軌跡を省みれば明らか。
要するに、「カレーライスに福神漬を添えて、かつ醤油をかけて食べる文化」が日本という列島に住む者たちの根本的な精神だと kilemall は考えたりしたりしなかったり*12。これを日本の伝統と言わずして、何を伝統と呼ぼう。アキバ系とか?

まとめ。神道は伝統じゃない。でも、神さまはずっと伝統でした。

*1:そもそも鎌倉時代の人が日本列島を一つの国と認識していたかどうかも怪しいが。多分、「日本…あ、やまと?西のスノッブな連中の話をオレに振るな」と言うかも獅子舞。

*2:武士道と答えたいあなたに…武士道 - ウリナラ起源説(ネタ)なんかどうですか。

*3:序列化された単一神教という見方も可。

*4:どんなに遡っても、海外の文化と区別した形で日本の独自性が自覚され始めたのは、ここら辺が限界っぽい。

*5:泉涌寺が当時どういう扱いを受けたのかを知りたいデス。

*6:但し、現在日本はアメリカの影響が大きい。外国と言えばアメリカ。アメリカで YES なら世界中が YES だと思い込む無邪気さ。

*7:分からなかったらマイベンライ=タイ語ケンチャナヨ

*8:日本は単一民族というのは戦後言われ始めたこと。戦後民主主義に騙されちゃイヤイヤ!

*9:国歌「君が代」の出典は古今和歌集だが、選出したのは大山巌。薩摩地方で祝賀の際に歌われる琵琶曲「蓬莱山」を気に入っていた大山が独断と偏見で決めちゃった。さすがは薩長クーデター政権。

*10:「神さま」と言い切ると大きく誤解されそうなので。

*11:惟神…神と共にあること。こういうことを言うとキリスト教風味の解釈をする非国民が左右を問わずプレンティーに存在。

*12:断定したら負けだと思う。