外国語は英語だけで良いという幸せ

突然だが、真っ当な仕事に就くために5ヵ国語を使えるようになければならないと宣告されたらどんな気持ちになるだろうか。これは仮定の話ではない。少なくても、東欧の発展途上国では。

去年のベストセラー『国家の品格』辺りの影響なのか、最近では「英語を学ぶくらいだったら正しい日本語を身に付けされるべきだ」という意見も多く見られるようになった。つまり、英語という外国の言葉を習得させる時間があったら、その分を日本語の向上に当てた方が有益だとする説だ。

なるほど。確かに言語というのは、その土地に住む人々の文化や生き方*1、思想といった点に大きく影響している。それ故、その国で使われている言葉を大切すべきだという気持ちは理解できる。ましてや、少子化の影響で将来的な消滅が危惧される少数民族の言語、Japanese なら尚更のことだ*2

一方で、例えば東欧の発展途上国…ここではウクライナを挙げてみよう。
偶然にも、ウクライナの学生と会話する機会を得た。日本語すらある程度理解する彼に、kilemall は「幾つの言語が使えるか」と尋ねた。すると、彼はバツが悪そうに「流暢に使えるのは3つ。他に理解できるのは2つくらいかな」という。
もちろん、日本人からすれば驚くべき数だ。kilemall は「何故そんなに覚える必要があるのか」と続けた。彼は「とんでもない。良い就職先を見付けるには足りないくらいだ」という。

彼の使う言語の内訳は次の通り。まずはウクライナ語だ。これは彼の国語であるから当然である。そして、ロシア語。ウクライナはロシアに強い影響を受けているから、ロシア語が必須の言語である。また、周辺国と会話するときもロシア語が必要だ。そして、英語。世界中の人々と交渉する際の必要最低限の言語である。実際、kilemall との会話は英語によってなされた。彼は、この3つ言葉を流暢に使える。
また、勉強中なのは中国語と日本語。まぁ、彼が日本語を勉強しているのは、単なる趣味(音楽・マンガなど)というワケではなく、ウクライナにおけるエリート外資系企業、TOYOTA, HONDA といった極東の自動車会社に就職するのを夢見てのことだろうから、日本語を勉強しているのは特に不思議ではない。最後に、中国語を学ぶのは「潜在的な利便性」を見通してのことだという。まぁ、ありがちな話だ。
ウクライナ人の彼に言わせれば、更にドイツ語、フランス語といった欧州の主要言語を習得しておくのが好ましいのだという。どう考えても脳の記憶容量以上の気もするが、覚えた言語の数だけ未来が明るくなると言われれば、必然的に意欲も湧くだろう。確実に当たる宝くじのようなものだ。

さて、日本の状況に話を戻す。誰もが承知の通り、日本人は英語を学ぶだけで精一杯だ。確かに戦前は、ドイツ・フランス・英語の3カ国語を解してこそエリートと言われたらしいが、現在の日本における他2言語の立場は、ときどき東京都知事に「個数が数えられない」と皮肉られる程度の有り様だ。
同時に、英語という言葉の影響力が歴史上かつてないほどの興隆を誇っている。その余りの横暴さに、思わず「英語帝国主義」とレッテルを貼りたくもなる。

しかし、今こそ冷静になって現実を捉える必要がある。ウクライナ人との会話で、kilemall はそう考えた。つまり、「外国語は英語だけ学べば良い」という現実を素直に受け止めても良いのではないかということ。
幸運にも、日本は他国によって言語が駆逐されたという歴史がない*3。故に、日本人にとって必ず学ばなければならない言語は、日本語だけなのだ。日本語さえあれば、納沙布岬から西表島*4に至るまで、人々と会話が通じるという現実。これは、非常にありがたい*5。先祖が日本列島に住む人々に残した偉大なる功績の一つといっても良い。

そこに、海外の人々と会話する上では、基本的に英語だけが必要とされている。もっとも、英語を話せない人々もまだ世界中に沢山いるし、それ以外の言語を見下すというわけではない。しかし、とにかく日本人は英語以外の言語を学ぶ必要性に迫られていない。何故、この幸運をないがしろにして、日本語だけを学ぶという消極的な姿勢を取るのだろうか。

また、日本人がこの幸運を直視しないが故の「国家の品格」に関わる事態というものもある。例えば、英語圏で出版された "rape of nanjing" がある。kilemall は、ここで南京プロパガンダが事実かどうかという話をするつもりは毛頭ない。しかし、「英語という現実」を直視し、それを確実に利用して "rape of nanjing" という問題を見事世界中の人々に読ませてみせた中華語圏の人々の見識は鋭い。
英語圏(第三者)の人に言わせれば、これだけ刺激的な内容ならば是非日本側の反論も読んでみたいとのことだが、今のところ "rape of nanjing" の反論本が出たという情報を kilemall は知らない*6
同様に、北朝鮮拉致事件を巡るドキュメンタリー映画を外国人*7に作らせているのでは、諸外国に腑抜けと皮肉られかねない。

また、卑近な例では、日本はポルノ大国だという世界の誤解がある。余計なことを書き過ぎるとフォローが大変だと理解したので詳細は控えるが、日本人は性に関して淫らで、その欲求は計り知れないと思われている節がある。Hentai は「日本のゲイジュツ」の同義語だ、なんて思い込んでいたら恥ずかしい目に遭うこと請け合いだ。

どれほど正しい内容でも、日本語で日本人に向けてのみメッセージを発信し続けているだけでは、足りないこともある。そう kilemall は考えている。現実的な打算だけではなく、「国家の品格」といった視点からも英語習得が大切だし、また英語だけを学べば良い現実がどれだけ恵まれたことか。そんなことに想いを巡らせるのも悪くない。

いつか海外の若者に「日本語だけは学んでおきたい」と思わせることが出来たら、それが国家の勝利だとは思いませんか。

*1:identity - 自分は何であるか理解すること。もしくは、その根拠。

*2:使用者は約1億人なので少数ではないが、公用語としているのはたったの2カ国。その他多くの言語よりはマシだが…。

*3:ここではアイヌ琉球語、各地方の方言は別個の問題とする。

*4:パラオとグアムの一部を含めても良い。

*5:一つの言語(方言)だけで国中の人々と交流できる国は余り多くない。

*6:あれば読むので教えて欲しい。

*7:カナダ人だっけ?