標識を磨く男

音も光も臭いもない空間の中では、自分が本当に存在しているのか確信は持てない。音や光、臭い、引いては周囲の人間関係といったもの同士の結び付きによって自分を知ることができる。しかし、そういった諸々の関係自体が自分自身であるわけではない。私たちは自分を変えられると信じている。しかし、変えているのは自分自身ではなく、自分自身を指し示す何かなのだ。言うなれば、私たちは私たちを指し示す標識を磨き続けることに一生を費やす。