否定文の認識における選好

人は否定文に真実味を感じる生き物である。「できる」よりも「できない」に、「ある」より「ない」に、「正しい」よりも「正しくない」により確からしさを感じる。そして、否定文によって成り立つ事象は忘れにくいが、単純な肯定文によって成り立つ事象は忘れやすい。それ故、人生は苦労と失敗と忍耐によって成り立っていると錯覚する。

幸せな人間は不幸だと、不幸な人間は幸福だと、平凡な人生は波乱に満ちていると、波乱に満ちた人生は単調だったと錯覚する。しかし、幸福の多寡などないし、人生に難易などない。否定文がそれらを作り出す。